KORG35VCF core

個人的にはこのKORG35を使ったVCFというのはVCFの中でも動作原理が難しいとかねがね思っていました。 回路規模においては実用的なVCFの中では最もシンプルなVCFでありますが。

2000年前後に前にやっていた Web pageでトランジスタを2個使ったVCF回路の原理図を出したところ、当時話題になって海外の DIYerの方々がとりあげてくれたことがありました。 これがKORG35の骨格でした。 現在では KORG35の中身はだれでもが知りえる状況にありますが当時はまだこのシンプルな VCFを知る人は多くありませんでした。 その後海外の DIYerのTim Stinchcombe氏がKORG35の理論解析レポートを2006年に出されています。

と言うこともありいまさらKORG35の解説をしても意味がないとも思わないでもないのですが、Tim 氏のレポートは当然KORG35のVCFとしての特性を扱ったものです。  私がこのKORG35に興味のある部分は VCFとしての特性でなく KORGの synthesizerに多用されているトランジスタの飽和抵抗としての使用法です。 KORG syntheでは VCFとVCAに飽和Tr.が使われており。KORG35は単体でなく同方向直列回路、一方 2Tr. VCAにおいては逆方向直列回路です。 飽和領域の動作はなじみがないのでなれないと難解で、それが2っ直列になると相互作用が働くのでさらに複雑になります。

Tim氏のレポートの中に私の名前も載っていることもあってKORG35に関しては何か書いておきたいとはかねがね思っていました。 ということでここでは KORG35における飽和 Tr.の直列接続動作を中心に考えようと思います。

KORGのanalog synthにおいてはVCO, VCF,VCAの各moduleの中心をなすdeviceがいずれも トランジスタ 2個で成り立っていて興味深いです。(もちろん付随回路をつければもっと複雑ですが)

*: VCO ......極性の異なる2Tr.の正帰還的配置 .. PUT(SCR接続)
*: VCF .......飽和抵抗の同方向直列回路
*: VCA .......飽和抵抗の逆方向直列回路

またBOSSのDR110のVCA(GATE)回路は飽和抵抗の並列逆接続回路です。 さらにROLANDのJX3PのVCresonance回路がKORGの2tr.VCAと同一です。(OPAMPが無い純粋な2Tr. VCA)




KORG35 hybrid ICは 5Tr.構成ですが主要部分は3Tr.で構成されています。 その3Tr及び周辺部品を下図、緑線枠内に示します。  それ以外の部品はVCFとして機能させる為の外部パーツ。



まず制御信号CVが抵抗で分圧されてTr1のコレクタに印加されます。 CV=0時、コレクタ電位はマイナスにシフトされる必要があるため(後述)、ここにはマイナス電源も印加されています。

Tr1はdiode接続されていて、後段の2つのtransistorに対しての温度補償と制御電圧(CV)を間接的に2Tr.のベースに与える働きをします。

Tr2とTr3は飽和抵抗の変化を利用した電圧制御可変抵抗(VCR)でこのVCFの心臓部です。

Vbcをリニアに変化させた時のエミッタ電流の変化が指数カーブ変化になりこのエミッタ電流が飽和抵抗を変化させますのでこの2っのtransistorはいわば antilog ampとしても機能しているわけです。

audio信号はTr2のコレクタから抵抗分圧されて印加されます。 またLPFとして動作させる為、Tr2,Tr3のエミッタにはcapacitorが取り付けられて います。



* CV供給回路 *

oct/V特性を得るためには 2個のVCR用transistorに対してリニアに電圧が印加される必要があります。

VCR用のtransistorにおいては Vbcがリニアに変化すればエミッタ電流が指数カーブで変化して結果dynamic resistance飽和抵抗も指数カーブ変化しますので 2個のVCR用transistorはいってみればantilog ampを兼ねているわけですのでこの回路には明示的なantilog ampはありません。

制御電圧(CV)は抵抗分圧されて Q1のコレクタに印加される形になっています。 Q1のベースは抵抗を介して固定電圧に接続されているのでCVが上昇すれば、B-C間に加わる印加電圧が減ってVbcは減少しそうですが、ほとんど変化しません。

R1が47K, R2が900Ω,R3が470KなのでR1,R2を流れる電流の変化に対してR3を流れる電流の変化は1/500程度になります。 すなわち Q1は定電流源につながれているような状態となるためQ1のB-C間電圧はほとんど変化しないことになりこれはR1とR2の中点の電圧が固定のB-C間電圧を介してQ2のベースに伝わるということです。

またQ1が定電流で駆動されているということは温度変化に対してB-C間が温度センサーとして機能することでもあります。

実際は定電流源にQ2,Q3が同時にぶら下がっているわけなのでQ1のB-C間電圧が一定である期間はCVの変化に対して常に一定ではなく特定区間においてのみですが。(次に説明します。) すなわち Q1に印加される電圧が低くなっていくとB-C間電圧はCVに追従して変化してしまいます。

Q1が十分BIASされている状態であれば、Q1のベースは CVの上昇に追従して ほぼリニアに増加しますので antilog ampとして機能する範囲はCVが-8V程度 まででその時のQ1のコレクタ電位は -120mV程度です。

CV電圧の変化を抵抗分圧した値がQ1のコレクタ電位に作用してそのコレクタ電位が 約0.6Vのオフセットを持って結果間接的にQ2,Q3のベースに印加されるわけです。  これはよくあるdual Trと OP AMPによる antilog ampの動作や ARP型antilog ampに おける温度補償 transistorに印加される電圧の関係と同じです。  すなわちこの Q1は制御電圧をオフセット付でantilog用のtransitorに供給し、 温度変化があった時にのみ Vbcが変化するということです。

もう少し詳しく言うと要はQ1のB-C間に定電流を流しておけば温度変化があった時 B-C間が温度に応じて変化するのでそれを利用してQ2,Q3のOFFSET温度補償が確実が行 えると言うことですが重要なのは B-C間には定電流のみがかかってB-C間はCVの変化 に対しては無変化でQ2,Q3に対してはCVの変化が伝わると言うことです。

この回路はそれを実現していると言うことです。 定電流源ではドライブされては いませんが、470Kという抵抗の値はそこそこ大きいので定電流に近いと解釈できる のでB-C間の電圧はほとんど変化しない。  CVの変化による電流自体ははB-C間を 通過しないこと、上記R2には一定電流とCV変化に対応した電流が重畳されるのでR2 の電位はB-C間に伝わり結果Q2,Q3に伝わる。

当然のことながらB-C間は十分バイアスされている必要がありますし、より定電流化 する為には R3の値ができるだけ大きい必要があること、Rを大きくすれば流れる電流 量自体は減ってくるので必要に応じてR3 - Q1 - R2に印加される電圧の大きさも重要 になってくる。

Q2のVce2は一定値となる為(*後述)、Q2のベースにリニアに電圧が印加 されれば Q3の Vbc3もリニアに変化します。  厳密にはQ2のコレクタに抵抗が接続されているのでこの抵抗の電圧降下が 指数カーブ的に変化しますので完全にリニアにTrのVbcは変化しませんが、この 電圧降下は微小なのでほぼリニアな電圧印加とみなせます。



ちょっとわかりにくい回路なのでこのCV回路部分を簡略化した原理図を以下に示します。
(VCR1個のみの説明... Tr2のみとして...)

原理的には上図のようにdiode 2本と抵抗1個、制御電圧(V2)、+電源で構成された回路と同じです。
CV=0Vのとき diode1と2は適度にBIASされており、diode1と2に流れる電流は同じでかつ 抵抗を流れる電流I1=I2+I3という関係となります。 この回路の電流特性と電圧特性を以下に示します。


* 電流特性


* 電圧特性

図をみるとわかるようにこの回路の電流、電圧特性は差動回路のそれとよく似ています。 これは高抵抗値のRによりI1が定電流に近い形になっていてそれにD1,D2が並列接続されているためです。

すなわちCVの上昇でdiode2の電流が上昇するとともにdiode1の電流が減少し、Rを流れる共通電流はD2が上昇するので低下しますが、この変化よりもdiodeを流れる電流変化のほうが極端なのと、I3が増えればI2がへるのでdiode電流を中心にみればI1はほぼ定電流と見えます。

CVとしては、I3が飽和しない範囲を使うため(この回路をantilog動作として利用するため)にはCVをマイナス側から開始させることによってdiode2の動作を立ち上がりから制御する必要があります。

CV(V2)がマイナスの領域では diode2に印加される電圧が低いのでdiode2にまだ十分に 電流が流れない状態であり、一方diode1は十分BIASされている状態なのでCVを序所に上昇させてもdiode1のA-K間電圧はあまり減少せず、CVの上昇を反映してdiode2の印加電圧がほぼリニアに上昇します

つまり、CVのリニアな変化はdiode1には作用せず、diode2にかかるのでdiode2を流れる電流は指数カーブ的に上昇します。

CVがある程度上昇するとdiode1のBIAS度が下がってくる( diode1のdynamic resistanceが大きくなる)のでCVの大半はdiode2でなくdiode1に対してかかる形になります。

ただしRにつながっている電源電圧は固定されているのでCV上昇はdiode1に対して電圧減少に働き、これはdiode1を順BIASする形では無く、BIASを弱める形です。

一方diode2はdynamic resistanceが下がるのでCV電圧上昇をリニアに反映できなくなる わけで、V2上昇と供にdiode2を流れる電流は飽和していき最終値はR1を流れる電流と同じになります。

上記のようにこの回路は差動回路によくにた動作をしますが、温度変化に対してもQ1がOFFSET温度補償の役目を果たします。

ARP式のantilog回路ではエミッタフォロワが温度補償を行いましたが、この回路においても RとB-C間の直列接続による負帰還によって温度変化時の電流の増加が押さえられるということで両者の差は負帰還の強さということになるのでしょう。



KORG35の回路に戻って、Q2,Q3のベース電流はR(470K)を流れる電流値がリミッタとな り飽和します。 逆にいうとRの値で電流の最大値が規定できるわけです。  さらにこの Rを流れる電流は antilog ampの Irefに相当します。

これ(飽和)は一見動作に支障をきたすようにも思えますが、CVの変化範囲を適正に 選択すればある範囲まではリニアに動き、ある範囲からはCVに対する電圧制限が 働く形になるので現実的な使用法を考えれば好都合なわけです。

結局のところQ2,Q3のベースに直接CVを印加すればVbcはリニアな変化をするわけ ですが、必要以上に電圧をかければtransistorが壊れてしまうわけで、かといって 単純に抵抗をいれたのではリニアな変化にならないのでこの回路のように間接的に 電圧を印加して、ベース印加される電圧が0.6V近辺以上にならないようにして、 かつCVの有効範囲においてはQ2、Q3のVbcにかかる電圧がリニアに変化するように しているわけです。


KORG35出力段

KORG35の回路は上記の Tr. 3個構成の主要部に加えて Tr. 2個で構成されるBuffer AMP部も搭載されており上記の Tr3のエミッタに下記のFETのゲートがつながった構成になっています。


・KORG35出力回路

この回路、たまに見かける回路ですがFETのソースフォロワのドレイン側にPNPのTr.が付いた構成でBufferもしくは非反転の増幅器であるということが想像できます(実際はBuffer AMPとして機能)。 ソースフォロワ自身の負帰還に加えて、PNP Tr.からも負帰還がかかっている構造。 この回路は以下に示す回路のNPN Tr.をFETに置き換えた物に酷似しているように思えます。


参考
・2石簡易OPAMP構造

上記回路は60年代によく使われた回路だそうで機能的には2石で構成される簡易OP AMPといえるものでこの場合非反転増幅専用です。

NPNのエミッタフォロワのコレクタ側にも抵抗をつけた形。 入力の交流信号に対してはQ1のベースとエミッタはバーチャルショートのような物(*1)なのでベースをOP AMPの(+)INとするとエミッタは(-)INに相当。 この場合エミッタ端子には元々エミッタフォロワとして負帰還がかかっているわけですがPNP出力側からも負帰還がかかりこちらの方が強いのでよりNPNのB-E間に印加される真の入力電圧は小さくなります。

PNP Tr.はI(R3)の上昇でVbeが上昇しPNPのIcも増加、R4*Icで出力電圧ですがIcはR2を通過してR2 ---- (R1//Rf)の直列回路の分圧でNPNに対して負帰還動作をします。 すなわちエミフォロのエミッタ端子に印加される電圧はNPNに対して負帰還。 負帰還の強さは R1//Rfと R2による分圧で決まるので右図の非反転増幅と同じ構造です。

OPAMPであれば裸GAINが変わらず負帰還の量で真の印加電圧が変化し出力量が変化する構造ですがこの回路はいかに。

*1: バイアス後のB-E間に印加される真の入力電圧はとても小さくOP AMPほどではないが便宜上は0と見る。 エミフォロは100%負帰還でその場合エミッタ端子は(-)端子に相当。


たとえばRfを小さくすると信号に対してエミッタフォロワの負帰還が低下するのでQ1の儼beは大きくなる、またVeはエミフォロなのでVeの変動を抑えるように動くので抵抗が下がれば電流を増やしてVeを保つようにするのででRfを流れる電流は増えNPNの信号成分電流は増える。 この場合NPNの直流バイアスはかわらないのでPNPの動作点は変化せずNPNのIcが増えるから Ic*R3でPNPのVbeの交流信号成分だけが増えるのでPNPの出力電圧は増加する。

Rfの低下によって負帰還が下がったのでOUTPUT電圧は増加する。この際PNPのGAINは変化していず PNPのB-E間に印加される交流信号だけが増加。  すなわちこの回路における真の印加信号電圧のみが上がっていることになる。 当然エミッタフォロワの信号電圧分のVbeも上がっているわけでこれはエミッタフォロワの真の入力電圧が大きくなった結果Ic*R3が大きくなったわけでOPAMPにおける負帰還の原理と同様。 R2を大きくしても同様に負帰還は減るのでOUTPUTは増える。


Q2のドライブ(Vbeの変化)

Ic1は定電流源なので R3とQ2のVbeは定電流源でドライブされていることになる。 Ic1はほぼリニアなのでIb2もリニアになるにはTr.のB-E間は必然的にLOG変化となるからI(R3)*R3はLOGにならなくてはならない。

実際はR3とQ2のB-E間の並列接続なので両者の抵抗値で分流となる。 Q2のVbeがLOG変化なのでR3の電圧降下、I(R3)も当然LOG変化である。 合成電流がリニアであれば道理が合わないのでIb2、 Ic2もわずかにEXPOぎみなのでしょうが動作点が高くなればほぼリニア、I(R3)のLOGの影響もわずか。 R3が大きければさらに影響は少なくなる。



VCR素子内の電流の流れ

ここからが本題ですが、まずは飽和抵抗回路を理解するために基本的なことがらを以下にしめします。

*: トランジスタを可変抵抗(VCR)として使う

ちょっとわかりにくいですがこの Q2. Q3の直列回路はコレクタにAUDIO信号源をおいているので 正Tr.を主体とした飽和回路で逆Trのコレクタ電流が正Tr.のエミッタ電流を干渉する形となります。 さらに各Tr.のエミッタに Capacitorをつなぐ形になりますが Cap.には CVとしての直流電流は流れません。

ここで動作の本質を得るためにβr=1という極端な例で考えます。

図のように Cap,を除いた場合で考えるとAUDIO信号 Vsig=0V時、電流は後段(Q3)のtransistorのベースを流れる電流はエミッタに流れずコレクタに流れそのコレクタ電流は前段(Q2)のエミッタに、エミッタの矢印とは逆に侵入し、エミッタ--ベースを通過してコレクタに流れ込み、その後コレクタをでて audio信号を減衰させている抵抗群にたどりつきます。

Ic2= Ib2 + Ic3
Ic2:Ic3 = 3:1
Ic3=Ie2

Q3は直流電流に対しては diode接続。 CVは両transistorのベースに印加されますが、 Q2に対してはダイレクトにかかりますが、 Q3に対しては CV-Vce2となります。 Q2 Vce2はこの回路において無号時、 約18mV(βR=1の時)になるため Q3のVbcはQ2に比べて18mV低くなりIb2とIb3の比は 2:1となります。

不思議なことにCVの変化に対してこの18mVは一定なので常に 2:1の関係を保持 します。 また Ic3はIb2+Ib3なのでこのため 制御電圧を反映した直流電流的に は Ic2:Ib2:Ic3=3:2:1となります。

よって、2っのtransistorの飽和抵抗(微分抵抗)は同じ値にならず当然、Q2の方が小さくなり、 Q2:Q3 = 2:1となります。 βrが大きければ差は縮まります。 たとえばβr=7であれば8:7となり1.15倍の差となります。 このためある程度βrが大きければ両者の差は無視できるでしょう。

上記のように Ic2:Ic3=3:1、 Ib2:Ib1 = 2:1、Ie2:Ie3:1:0となりいったいどれが制御電流を示しているのかが問題になりますがTr.単体時の飽和動作を考えればこれは正Tr.主体の飽和回路のように見えるのですが、出力電流としては両 capacitorに対応するのはエミッタ電流Ieなので活性領域のIeの値が制御電流というか 動作点のBIAS電流になるということになり、各Icの変化は IeにIbの変化が重畳されたものとみなせます。

Q2、Q3の直列回路においてAUDIO信号が印加されず制御電圧のみがかかっている場合はQ3のエミッタにCap,があるため直流に対してはエミッタはオープンでエミッタには電流が流れずQ3はdiodeです。

これは Tr.単体の特性としてエミッタGNDであれば Vce =0VでやはりIe=0が成り立つのでどこか整合性がとれているように思われますがエミッタ電流が存在しないのでQ3のIcは全てQ3のIbになります。

AUDIO信号が印加された場合はどうなのでしょう。 この際IcはIbとIeに分流しますが Vsig=0Vのタイミングでは Ie=0が成り立ちます。

制御電圧のみ時はIc=Ibとなって Vsig=0V時ピンクのカーブのVsig=0V時の電流値がIbと、AUDIO信号が印加された時はIcは IbとIeに分離し Ibのカーブの Vsig=0V時の電流値は同じ。


では制御電圧は VbeかVbcかというと Vbeであれば図では Q2とQ3のVbeは同じ値になってしまいつじつまが合いませんのでVbcが制御電圧で両者の間には18mVの差が存在。

βrが1の場合は 各Tr.におけるIcの比とIeの比は 3:1と2:1で異なりますがβrが大きくなるとそんなに違わない値になります。 実際 Cap.に流れる電流は両者ともエミッタ電流 Ieですので Ieが制御電流というか diodeで言うところの動作点でのBIAS電流です。

Vce=0V近辺での電流変化は Tr.を可変抵抗として成立させるための電流値ですのでその数値そのものはBIAS電流値とは意味合いが少し違いますがその位置でのカーブの傾きは活性領域のIeの値すなわち微分抵抗値を得る要素と同様になります。

よって両Tr.の制御電圧の差が制御電流の差となり Q2:Q3 = 2:1の関係になりそれ反映してVsig=0Vで Vce2=18mvとなりQ2のVbcとQ3のVbcとは 18mV差Q3はdiode接続なので Q3のVbeとVbcは同じでQ2のVbeとQ3のVbeは同じになっています。

ということはAUDIOをコレクタ側に入れてはいますが、制御電圧はVbcということになり Q2とQ3の BIASとしての電圧差は 18mVで BIAS電流は図では上から下に向かって Q3B -->Q3 C --> Q2E --> Q2B -->Q2C ---> AUDIO信号という経路。


制御電圧のみ与えた初期状態の電流

簡単のために Q3のエミッタに100uFをつけて 1KHzのSIN波をAUDIO信号を Q2のコレクタにいれた場合を考えます。 Q2のエミッタには簡単のため capacitorは装備せず、  (この場合 100uFの両端子電圧はほぼ0Vとする為)

まずは 制御電圧のみがかかっていて AUDIO信号の無い初期状態における各電流のバランスを考えます。 飽和動作は 正、逆トランジスタの流れが混在しますのでトランジスタ内部ではキャリアの流れで考えた方がわかりやすいのでその図を以下に示します。

Vsig=0V時逆Tr.のIbが逆Tr.のIcの半分という大きな値。 この時外部に流れるIEの値を 0にすべく、逆Tr.の Icの 1/2の電流値の正Tr.の Iefが発生してIcの1/2を相殺している状態。

Q2のIe2とQ3のIc3が両者の共有電流となってバランス


AUDIO信号の流れ

Q3のエミッタがOPENでなくなるので Ie3が流れますがこの値は Ib3: Ie3 =1:1となり それがQ3のコレクタ電流となるので Q2のIe2: Q3のIe3= 2:1となり Ieの値が制御電圧 Vbcの差 18mVと同じになります。

* 1:1は 逆Tr.のIcrが IerとIbrに分流する比率と同じ。



Q2のVceが18mVのわけ(βr=1の時)

これがある意味、飽和抵抗の直列接続における鍵、自然法則を示しています。

通常の抵抗であれば共有電流が流れるためには両者の抵抗値に応じて印加電圧が分圧されることによって両者に共有の電流が流れます。 では飽和Tr.の直列接続においてはこれに対応するものは何か?。

Q2とQ3は Q2のエミッタ、 Q3のコレクタが共通でつながっています。 すなわちQ2のエミッタ電流を共有する必然が生じます。 βr=1の飽和Tr.のおいては IeとIcの差は2倍ありますのでそれを解消する必要が生じ、そのためには Q2のVbcがQ3の Vbcより18mV高くなる必要があります。

上図のようにQ3の場合はVce=0を中心として動作する時Ic3は1uAとなりそれと同じ電流値のQ2 Ie2を実現するためには Q2のVceが18mVになると合致するということです。 これによりIe2とIc3が共有電流となり、直列接続の電圧印加以前の初期状態においてQ2にVce=18mVが印加される。 Vceが18mVあるから両Tr.の Vbcに差ができるという平衡反応。(*1) βr=7程度ではIeとIcの差がそれほど大きくないので上図におけるグラフのカーブの大きさの差も少なく、よってQ2側のVceは5mV程度でバランスします。

Q2のVbcとQ3のVbcとの差が18mVなので単純に両Ieは2倍の差ですが釣り合うのはIc3とIe2なのでQ3の動作点Vce=0Vに対してQ2の動作点はより飽和度が弱い地点に移行するがQ3の Vbc3=Vbc2 - Vce2なのでこれを満足する地点で両者がバランス。

飽和抵抗の直列回路においては両C-E間を流れる電流値は直列であっても全く同じ値にはならない。 これが通常抵抗とはちょっと違う点。 これはベース電流の影響が出るからであってIbが小さくなれば両C-E間電流はほぼ同じになるので本質的には共有電流としては同じ値が流れていることは確か。


現実的には微分抵抗比は 1:1.2くらいなので単純に C-E間は抵抗で B-C間に印加する制御電圧で filterが構成できると単純に思えばこのような微分抵抗の問題でなやむことも無いのですが実際、飽和領域の トランジスタ内部のキャリアの流れは複雑なのは事実なのです。


KORG35のLPFとしての構成

KORG35の原理図自体はとてもシンプルです。 当初微分抵抗の比を1:3だと考えていたので Cap.容量のアンバランスは各 FilterのFcのアンバランスを補正するものだと思っていましたがこれは間違いでした。 そもそも現実の Tr.がβr=1という値をとらずもっと大きい値であれば微分抵抗比は1:1.2程度におちつくはずです。 となるとこの Cap.容量のアンバランスはResonance最少時の肩特性の改善と言うことになります。


Cap.の容量を同じに取った場合と 3:1に取った場合の F特の違い。

これはおそらく KORG700等の diode ringの特性に合わせているのだと思います。  700のVCFは微分抵抗の比がこちらは正に 1:3であってかつCap.の容量は同じ値になっていますので。



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